産後の湿疹:ママを悩ませる肌トラブルの原因と効果的な対策

出産は女性にとって大きな喜びであると同時に、心身に大きな変化をもたらします。
その一つが、多くのママが経験する産後の湿疹です。
この時期に「あれ?肌の調子がいつもと違う…」「急に痒みが出てきた」と感じる方は少なくありません。
産後の湿疹は、ホルモンバランスの急激な変化、睡眠不足やストレスによる生活リズムの乱れ、そして便秘など、様々な要因が複雑に絡み合って引き起こされる肌トラブルです。
この記事では、産後の湿疹に悩むママのために、その具体的な原因から、症状、そして自宅でできるセルフケア、さらには病院を受診すべきタイミングまで、詳しく解説していきます。
1.なぜ産後に湿疹ができやすくなるの?知っておきたい3つの主な原因
産後の湿疹は、出産という一大イベントを経て体が大きく変化する時期に現れやすい症状です。
その背景には、主に以下の3つの要因が挙げられます。
1. ホルモンバランスの劇的な変化
出産を終えると、女性の体内ではホルモンバランスが劇的に変化します。
特に、妊娠中に豊富に分泌されていた「エストロゲン」という女性ホルモンが急激に減少します。
エストロゲンは、肌の潤いやハリを保ち、ターンオーバーを整える重要な役割を担っています。
出産後、特に産後1~2週間はエストロゲンの分泌がほぼゼロになると言われています。
この急激な減少により、肌のターンオーバーが乱れ、バリア機能が低下しやすくなります。
その結果、外部からの刺激に敏感になり、産後の湿疹や乾燥、肌荒れなどのトラブルを引き起こしやすくなるのです。
2. 慣れない育児による生活リズムの乱れとストレス
赤ちゃんとの生活は、喜びと同時に、想像以上にママの心身に大きな負担をかけます。
授乳やおむつ替え、寝かしつけなど、不規則な生活リズムが続きます。
睡眠不足や疲労は、自律神経の乱れを引き起こし、免疫力の低下や肌のバリア機能の低下に繋がります。
これにより、外部からの刺激に対する抵抗力が弱まり、産後の湿疹が悪化したり、新たに発生する原因となります。
慣れない育児への不安や、自分の時間が持てないことへの焦りなど、精神的なストレスも蓄積されやすくなります。
ストレスはコルチゾールというストレスホルモンを分泌させ、これもまた肌の状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
3. 便秘による肌への悪影響
意外に思われるかもしれませんが、便秘と肌トラブルには密接な関係があります。
産後の湿疹の背景にも、便秘が関わっているケースが少なくありません。
出産によって、排尿や排便をコントロールする骨盤底筋が伸びてしまい、便を押し出す力が弱まることがあります。
また、母乳育児をしているママは、赤ちゃんに水分を取られるため、自身が水分不足になりやすく、便が硬くなりやすい傾向にあります。
便秘になると、腸内に悪玉菌が増え、有害物質が発生しやすくなります。
これらの有害物質が血液中に吸収され、全身を巡ることで肌のターンオーバーを阻害したり、炎症を引き起こしたりする可能性があります。
2.産後の湿疹と関連データ:知っておきたい数字

産後の湿疹は多くのママが経験する一般的なトラブルであり、その背景には様々な要因が絡んでいます。
ここでは、産後の湿疹やそれに影響を与える可能性のある要因に関する具体的なデータをご紹介します。
産後の皮膚トラブル経験者の割合:

産後の女性の約50%以上が何らかの皮膚トラブルを経験するという報告があります(※1)。この中には、乾燥肌やニキビといった症状も含まれますが、産後の湿疹も上位を占めるトラブルの一つです。ホルモンバランスの急激な変化が、これらの肌トラブルに大きく影響していると考えられています。
新生児期のママの平均睡眠時間: 新生児期のママの睡眠時間は、平均で1日4~5時間程度というデータがあります(※2)。これは、出産前の成人女性の推奨睡眠時間(7~8時間)と比較して大幅に短い時間であり、慢性的な睡眠不足に陥りやすい状況を示しています。睡眠不足は、肌のターンオーバーを阻害し、バリア機能の低下を招くため、産後の湿疹の発症や悪化に繋がる重要な要因となります。
腸内環境と皮膚疾患の関連性: 近年、腸内環境(腸内フローラ)の乱れが、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性皮膚疾患や、その他の皮膚トラブルと関連しているという研究が数多く進められています(※3)。便秘などによる腸内環境の悪化は、有害物質の発生や免疫機能の低下を引き起こし、間接的に産後の湿疹の発症や悪化に影響を与える可能性があると考えられます。
これらのデータからも、産後の湿疹は単なる肌の問題だけでなく、ホルモン、生活習慣、そして腸内環境といった体全体のバランスが密接に関わっていることが理解できます。
参考文献 (※1) 日本皮膚科学会 (※2) 厚生労働省「乳幼児とその保護者の睡眠・生活習慣ガイド」 (※3) 日本アレルギー学会
3.産後の湿疹はいつ頃できる?どんな症状が現れる?

産後の湿疹の発症時期や症状は、個人差が非常に大きいのが特徴です。
出産直後から肌の異変を感じる方もいれば、産後数ヶ月から数年経ってから突然症状が現れる方もいます。
発症時期の多様性
出産直後から
: 出産翌日から急に肌の調子が悪くなる、赤みやかゆみが出るといったケース。
産後数ヶ月~数年
: 産後落ち着いてきたと思っていたら、突然湿疹が出始めるというケースも少なくありません。これは、疲労の蓄積や育児によるストレスが時間をかけて影響を及ぼすためと考えられます。
主な症状
産後の湿疹でよく見られる症状は以下の通りです。

赤み
: 肌が部分的に赤くなる。
かゆみ
: 強いかゆみを伴い、掻きむしってしまうことで悪化することも。
ミミズ腫れ
: 蚊に刺されたように盛り上がったり、ミミズ腫れのように線状に腫れたりする。
小さなブツブツ
: 湿疹の初期段階で、細かいブツブツが現れることもある。
乾燥とカサつき
: 湿疹が出る部分が特に乾燥し、カサつくことがある。
症状の出方も様々で、「常に症状が出ている」「体温が上がった時だけかゆみが増す」「肌の薄い部分(首、腕の内側、顔など)にできやすい」など、個人によって異なります。
症状が長期化したり、日常生活に支障をきたすほど強いかゆみがある場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
4.産後の湿疹ができたら病院に行った方がいいの?受診の目安と授乳中の薬について

「赤ちゃんを連れて病院に行くのは大変…」
「このくらいの症状で病院に行っていいのかな?」
と、病院受診をためらってしまうママは少なくありません。
しかし、肌の状態が悪化し、それがストレスになってしまう前に、適切な医療機関を受診することは非常に重要です。
病院受診を検討すべきケース
以下のような場合は、皮膚科を受診することを強くおすすめします。
かゆみが強く、夜眠れない、集中できないなど日常生活に支障が出ている。
湿疹の範囲が広がっている、悪化している。
市販薬を使っても症状が改善しない、むしろ悪化している。
かきむしってしまい、皮膚がただれている、浸出液が出ている。
精神的なストレスが大きくなっている。
授乳中の薬について

「授乳中だから薬は飲めない」と心配されるママもいますが、ご安心ください。
皮膚科では、授乳中でも安心して使用できる塗り薬や、産後の不調にも良いとされる漢方薬などを処方してもらえる場合があります。
必ず医師に授乳中であることを伝え、適切な治療法を相談しましょう。
自己判断で市販薬を使用するよりも、専門医の診察を受けることが早期改善への近道です。
妊娠・出産、そして産後の育児は、ご自身が思っている以上に心身に負担がかかっています。
無理に我慢せず、プロの助けを借りることも大切な育児の一部です。
5.産後の湿疹を和らげるセルフケア:自宅でできる3つのポイント

「すぐに病院に行くのは難しい」「まだそこまでひどくないからセルフケアで様子を見たい」というママのために、自宅でできる産後の湿疹対策をご紹介します。
大切なのは「保湿」「食事」「睡眠」の3つのポイントです。
これらを意識することで、肌のバリア機能を高め、症状の緩和を目指しましょう。
1. 丁寧な保湿で肌のバリア機能をサポート
肌の乾燥は、湿疹を悪化させる大きな要因の一つです。
出産後の肌は特にデリケートになっているため、普段以上に丁寧な保湿ケアを心がけましょう。
低刺激性の保湿剤を選ぶ
: 赤ちゃんの肌にも使えるような、低刺激でアルコールフリーの化粧水や乳液、ボディクリームを選びましょう。お風呂上がりは特に乾燥しやすいので、タオルで優しく水分を拭き取ったらすぐに保湿剤を塗るのがポイントです。
加湿器の活用
: 育児中は家の中で過ごす時間が増えるため、室内の湿度が低いと肌の乾燥が進みやすくなります。加湿器を使用して、室内の湿度を50~60%に保つよう心がけましょう。
優しい洗顔・入浴
: 熱すぎるお湯での入浴や、ゴシゴシと肌を擦る洗い方は、肌のバリア機能を低下させます。ぬるめのお湯で、低刺激性のボディソープや石鹸を泡立てて優しく洗い、シャワーも短時間で済ませるようにしましょう。
2. 腸内環境を整える食事で体の中からケア
前述の通り、便秘は産後の湿疹と深く関係しています。
バランスの取れた食事を心がけ、腸内環境を整えることが、肌の状態を改善する上で非常に重要です。
水溶性食物繊維を積極的に摂取
: 便をやわらかくし、排便をスムーズにする水溶性食物繊維(海藻類、きのこ類、こんにゃく、果物など)を積極的に食事に取り入れましょう。
発酵食品を摂る

: ヨーグルト、納豆、味噌などの発酵食品は、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整えるのに役立ちます。
肌の再生を促す栄養素:
・ビタミンE: 抗酸化作用があり、肌の健康維持に役立ちます(ナッツ類、植物油など)。
・ビタミンB群: 新陳代謝を促進し、肌のターンオーバーをサポートします(豚肉、レバー、魚介類など)。
・タンパク質: 肌の細胞を作る材料となります(肉、魚、卵、大豆製品など)。
・水分補給: 母乳育児中のママは特に水分不足になりやすいので、意識的に水分を摂るようにしましょう。目安として1日2リットル程度を目標に、こまめに水を飲む習慣をつけることが大切です。
避けるべき食品
: 香辛料などの刺激物や、高脂肪食は腸内環境を悪化させる可能性があるため、摂りすぎに注意しましょう。
3. 質の良い睡眠で肌の回復力を高める
産後の湿疹対策において、睡眠は最も重要な要素の一つです。
睡眠中に分泌される成長ホルモンは、肌の細胞の修復や再生を促します。
睡眠時間の確保
: 育児中はまとまった睡眠時間を確保するのが難しいかもしれませんが、細切れでも良いので、できるだけ休息を取るように心がけましょう。赤ちゃんが寝ている間に一緒に横になったり、家族に協力してもらったりして、少しでも睡眠時間を確保することが大切です。
質の良い睡眠を意識する
: 寝る前にスマートフォンやパソコンの使用を控え、リラックスできる環境を整えることで、質の良い睡眠に繋がります。アロマや軽いストレッチなども効果的です。
無理は禁物
: 「私が頑張らなくちゃ」と無理をしてしまうママも多いですが、湿疹は体からのSOSのサインです。自分をいたわることを忘れずに、心身を休ませる時間を意識的に作りましょう。
6.産後の肌トラブルはいつまで続く?焦らず回復を待つ大切さ
出産後、体が妊娠前の状態に戻るまでの期間を「産褥期(さんじょくき)」と呼び、一般的に出産から約8週間程度を指します。
この時期は、ホルモンバランスが急激に変化し、心身ともに不安定になりやすいため、産後の湿疹だけでなく、抜け毛や肩こり、腰痛など、様々な不調が現れやすい時期です。
しかし、産褥期を過ぎたからといって、体が突然元通りになるわけではありません。
多くの女性は、産後半年から1年程度かけて徐々に体が回復していきます。
産後の湿疹も、この回復期間中に改善していくことがほとんどですが、個人差が大きく、長期化するケースもあります。
大切なのは、焦らず、ご自身の体の声に耳を傾けることです。
無理をせず、周囲の協力を得ながら、ゆっくりと体を回復させていきましょう。
産後の湿疹が長引いたり、悪化するようであれば、我慢せずに再度専門医に相談してください。
ママの心と体の健康が、赤ちゃんの健やかな成長にも繋がります。
この記事を書いた人
山下 こうすけ

わくわくボディクリニック代表 | 美容・健康業界の第一人者
2003年、セラピストとしてキャリアをスタートし、2010年に「わくわくボディクリニック」を創業。
独自に開発した20年以上の研究に基づく施術メソッドが高く評価され、現在では年間15,000人以上が来店する人気サロングループへと成長を遂げる。
また、その高い専門性と技術力が評価され、ミス・ジャパンの審査員も担当。
美容・健康に関するセミナー講師として、多くの女性の美と健康をサポートし続けている。
現在も施術の最前線に立ちつつ、最新の美容・健康トレンドを取り入れながら、多くの女性の「美」と「健康」をサポートし続けている。